酸と塩基
HClとCH₃COOHは同じ「酸」でも、水中での振る舞いがまったく違う。
酸・塩基の定義と電離度の違いを、はじめての人から難関大志望者まで使えるレベルで比較しよう。
単元マップ:酸と塩基
この単元は4ページに分かれている。まず酸・塩基の定義(このページ)を学び、水溶液の酸性・塩基性の強さを表すpHを理解し、酸と塩基が反応する中和反応を学び、最後にその中和反応を利用した実験操作中和滴定に進む、という流れになっている。
図0:単元5は4つのページ(酸と塩基・pH・中和反応・中和滴定)で構成される。色付きのボックスをクリックすると各ページへ進める。
酸・塩基の定義
レモン汁や酢のように酸っぱい味がするものが「酸」、せっけん水のようにぬるぬるして苦みのあるものが「塩基(アルカリ)」——というのが素朴なイメージだが、化学ではもっと正確に、水溶液中でどんな粒子をやり取りするかで酸と塩基を定義する。
酸と塩基の定義には複数の考え方がある。高校化学基礎では主にアレニウスの定義とブレンステッド・ローリーの定義を学ぶ。
📖 2つの定義の比較
| 定義 | 酸 | 塩基 |
|---|---|---|
| アレニウス | 水溶液中でH⁺を生じる物質 例:HCl → H⁺ + Cl⁻ | 水溶液中でOH⁻を生じる物質 例:NaOH → Na⁺ + OH⁻ |
| ブレンステッド・ローリー | H⁺を与える物質(プロトン供与体) 例:CH₃COOH → CH₃COO⁻ + H⁺ | H⁺を受け取る物質(プロトン受容体) 例:NH₃ + H⁺ → NH₄⁺ |
🔢 酸・塩基の価数
| 価数 | 酸の例 | 塩基の例 |
|---|---|---|
| 1価 | HCl, HNO₃, CH₃COOH | NaOH, KOH |
| 2価 | H₂SO₄, H₂CO₃ | Ca(OH)₂, Ba(OH)₂ |
| 3価 | H₃PO₄ | Al(OH)₃ |
❌ よくある誤解
NH₃はOH⁻を持たないのでアレニウスの定義では塩基と説明しにくいが、ブレンステッド・ローリーの定義では「H⁺を受け取る物質」として自然に塩基と説明できる。
CH₃COOHは分子式中に4個のHがあるが、電離してH⁺を出せるのはカルボキシ基(-COOH)の1個だけなので1価の酸である。
酸・塩基の定義はさらに拡張され、電子対の授受に注目するルイスの定義(電子対を受け取るものが酸、与えるものが塩基)もある。この定義では、単元3で学んだ配位結合における電子対の授受も酸塩基反応の一種として説明できる。大学範囲(ルイスの定義)
強酸・弱酸と電離度
同じ「酸」でも、水に溶かしたときの"本気度"が違う。塩酸(HCl)は水に溶けるとほぼ全部がバラバラのイオンになる一方、お酢の酸っぱさのもとである酢酸(CH₃COOH)は、ごく一部しかイオンにならず、大部分はもとの分子のまま水に浮かんでいる。この「バラバラになる割合」を電離度という。
酸・塩基が水溶液中でどのくらい電離するかを示す割合が電離度 α。完全に電離するものを強酸・強塩基、一部だけ電離するものを弱酸・弱塩基という。
図1:強酸(HCl)は全分子が電離、弱酸(CH₃COOH)は一部のみ電離。同じ濃度でもH⁺濃度が大きく異なる。
📋 主な強酸・弱酸・強塩基・弱塩基
| 種類 | 代表例 | 電離度 |
|---|---|---|
| 強酸 | HCl(塩酸)・H₂SO₄(硫酸)・HNO₃(硝酸) | ≈1(完全電離) |
| 弱酸 | CH₃COOH(酢酸)・H₂CO₃(炭酸)・HF(フッ化水素酸) | ≪1(部分電離) |
| 強塩基 | NaOH・KOH・Ca(OH)₂・Ba(OH)₂ | ≈1 |
| 弱塩基 | NH₃(アンモニア)・Cu(OH)₂・Mg(OH)₂ | ≪1 |
❌ よくある誤解
薄い塩酸(強酸だが低濃度)と濃い酢酸(弱酸だが高濃度)では、必ずしも塩酸の方がH⁺濃度が高いとは限らない。強弱と濃淡は独立した2つの軸として区別する必要がある。
酢酸は弱酸だが、NaOHと過不足なく中和反応する(中和の量的関係は電離度に関係なく、酸から出せるH⁺の総量で決まる)。
弱酸の電離のしやすさは、電離定数(酸解離定数)K_aで定量的に表される。酢酸ではK_a=1.8×10⁻⁵(25℃)であり、この値が大きいほど電離しやすい(酸として強い)。K_aの−log₁₀をとったpK_aという指標もよく使われ、酢酸のpK_aは約4.74。次のページで学ぶpHとpK_aは同じ対数の考え方でつながっている。電離定数の定量的な扱いは発展的内容
✅ この単元のまとめ
- アレニウスの定義:酸→H⁺放出、塩基→OH⁻放出
- ブレンステッド・ローリーの定義:酸→H⁺供与、塩基→H⁺受容(アレニウスの定義をより広い場面に拡張)
- 価数:電離してH⁺またはOH⁻として放出できる数(化学式中の全H・OHの数とは限らない)
- 電離度α≈1 → 強酸・強塩基;α≪1 → 弱酸・弱塩基(強弱と濃度は別の軸)
- 弱酸の電離のしやすさは電離定数K_aで定量的に表される
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