化学平衡
反応はなぜ途中で止まるように見える?平衡定数とルシャトリエの原理で平衡移動を制御しよう。
化学平衡と平衡定数
満員電車で、ドアが開くと何人か降りて何人か乗ってくる。人数だけ見ると変化していないように見えても、実際には人の出入りは絶えず起きている。化学反応もこれと似た状態になることがある。
密閉容器の中で進む反応の中には、反応物から生成物ができる反応(正反応)と、生成物から反応物に戻る反応(逆反応)が同時に起こるものがある。しばらくすると、両方の反応の速さが釣り合って、見かけ上は濃度が変化しなくなる。これを化学平衡という状態で、反応が完全に止まったわけではなく、正逆の反応が同じ速さで進み続けている。
可逆反応では、正反応と逆反応の速度が等しくなった状態(化学平衡)で、見かけ上変化が止まる。このとき各成分の濃度は一定となり、その比を平衡定数 Kc(または圧力基準の Kp)で表す。Kc は温度のみで変化する。
📐 平衡定数の定義
| 反応 | Kc の式 | 説明 |
|---|---|---|
| aA + bB ⇌ cC + dD | Kc = [C]ᶜ[D]ᵈ / ([A]ᵃ[B]ᵇ) | [ ] はモル濃度 [mol/L] |
| 気体反応の Kp | Kp = Pc×Pd / (Pa×Pb)(分圧基準) | Kp = Kc × (RT)^(Δn)(Δn:気体molの変化量) |
| Kc の温度依存性 | 温度が変わると Kc が変わる | 濃度・圧力を変えても Kc は変化しない |
📉 平衡へ近づく濃度変化(計算例)
図1:可逆反応 A⇌B(正反応の速度定数kf=0.05/s、逆反応kr=0.02/s、初濃度[A]₀=1.0 mol/L)における[A]・[B]の時間変化。反応速度式(d[A]/dt=−kf[A]+kr[B])を実際に解いて計算した値をプロット。時間が経つと[A]・[B]はそれぞれ一定値(平衡値、[A]eq≈0.286、[B]eq≈0.714)に収束し、その比[B]eq/[A]eq=kf/kr=2.5がKcと一致する。
❌ よくある誤解
ミクロで見れば分子は絶えず反応し続けている。平衡は「反応が止まった状態」ではなく「反応が釣り合っている状態」と理解する。
出発点の濃度が違っても、十分時間が経てば必ず同じKcの値に落ち着く。これはKcが「反応の進みやすさの指標」として温度だけで決まる本質的な量だから。
平衡定数Kcは、正反応の速度定数kfと逆反応の速度定数krの比 Kc=kf/kr に等しい(平衡では正逆の速度が等しいv正=kf[A]=v逆=kr[B]より[B]/[A]=kf/kr)。これは「速度論(反応速度)」と「熱力学(平衡)」という一見別の分野が、実は同じ関係式でつながっていることを示している。大学範囲
ルシャトリエの原理と平衡移動
満員電車がある駅で少し混みすぎたら、次の駅でいつもより多く人が降りて混雑を和らげようとするような「バランスを取り戻そうとする働き」が、化学平衡にも存在する。
例えば、平衡状態にある容器に反応物を追加すると、系は追加された分を打ち消すように反応が進み、新しい平衡状態に落ち着く。このように、外から変化を加えると、その変化を打ち消す方向に平衡がずれる性質をルシャトリエの原理という。
ルシャトリエの原理:平衡状態にある系に外部から変化(濃度・温度・圧力)を与えると、その変化を打ち消す方向に平衡が移動する。
図2:ルシャトリエの原理まとめ。変化を「打ち消す方向」に平衡が移動する。
❌ よくある誤解
「圧力を変える」という操作が、反応に関わる気体の濃度・分圧を実際に変化させるかどうかで判断する必要がある。
「平衡が移動する」ことと「Kcが変わる」ことは別の現象。濃度・圧力変化はKc一定のまま平衡組成だけを変え、温度変化はKcそのものを変える。
温度変化がKcを変える理由は、正反応・逆反応の活性化エネルギーEaが異なるため。発熱反応(正反応)の場合、逆反応(吸熱)の方がEaが大きく、温度上昇によって逆反応の速度定数krの方が正反応のkfより大きく増加する(アレニウス式でEaが大きいほど温度への感受性=k値の増加率が大きいため)。結果としてKc=kf/krが小さくなり、平衡は逆(吸熱)方向へ移動する。大学範囲・発展
✅ この単元のまとめ
- 化学平衡:正逆反応速度が等しくなった動的平衡状態(反応は止まっていない)
- 平衡定数 Kc = [生成物]の積 / [反応物]の積(固体・純液体は含めない);Kc=kf/kr
- Kc は温度のみで変化する(濃度・圧力では変化しない)
- ルシャトリエの原理:外部変化 → 変化を打ち消す方向へ平衡移動
- 濃度増加 → その成分が減る方向へ移動
- 温度上昇 → 吸熱方向へ移動;圧力増大 → 気体 mol 数が減る方向へ移動
- 触媒:平衡移動なし(平衡定数 Kc は変化しない、到達時間だけが短くなる)
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