電離平衡
弱酸の水溶液のpHはどう計算する?電離定数から緩衝液・溶解度積まで、電離平衡を総整理しよう。
弱酸・弱塩基の電離定数とpH計算
お酢(酢酸水溶液)は、塩酸のようにすべての分子がバラバラにイオンになる「強酸」とは違い、ごく一部の分子だけがH⁺を放出してイオンになる「弱酸」である。溶液の中では、電離した状態(H⁺とCH₃COO⁻)と電離していない状態(CH₃COOH)が常に共存しており、これも一種の化学平衡(電離平衡)になっている。
面白いことに、同じ酢酸でも水で薄めれば薄めるほど、電離する分子の「割合」は増えていく(ただし全体のH⁺の量そのものは減る)。この「割合」と「全体の量」の違いを理解することが、電離平衡のポイントになる。
弱酸(酢酸 CH₃COOH など)は水溶液中で一部だけ電離する。電離平衡の平衡定数を酸の電離定数 Ka、塩基の場合をKb という。これを用いて水溶液の [H⁺] や pH を計算できる。
📐 弱酸の電離平衡とpH計算
| ステップ | 内容・式 |
|---|---|
| 電離式 | HA ⇌ H⁺ + A⁻(HA:弱酸) |
| 電離定数 Ka | Ka = [H⁺][A⁻] / [HA] |
| [H⁺] の近似計算 | 弱酸の電離度 α が小さい場合:[H⁺] = √(Ka × C)(C:初濃度) |
| pH | pH = −log₁₀[H⁺] |
| 酢酸の Ka | Ka ≈ 1.8 × 10⁻⁵ mol/L(25°C) |
📉 オストワルトの希釈律(酢酸, 計算例)
図1:酢酸(Ka=1.8×10⁻⁵)の濃度Cと電離度αの関係。Ka=Cα²/(1−α)を実際にαについて解いて計算した値をプロット(横軸は対数目盛)。濃度が1 mol/Lのとき電離度は約0.4%だが、濃度が0.0001 mol/Lまで薄めると約34%まで電離度が上がる(オストワルトの希釈律)。
🧮 塩の水溶液のpH
| 塩の種類 | 水溶液の性質 | 例 |
|---|---|---|
| 強酸 + 強塩基 | 中性(pH = 7) | NaCl, KNO₃ |
| 弱酸 + 強塩基 | 塩基性(pH > 7)加水分解でOH⁻生成 | CH₃COONa, Na₂CO₃ |
| 強酸 + 弱塩基 | 酸性(pH < 7)加水分解でH⁺生成 | NH₄Cl, CuSO₄ |
❌ よくある誤解
「電離度が上がる」のと「酸性が強くなる」のは別の話。薄めれば必ずpHは7(中性)に近づいていく。
Ka=Cα²/(1−α)という関係式で、Cが変わればそれに応じてαも変わり、両者の組み合わせでKaは常に同じ値を保つ。
電離度αが小さいという近似([H⁺]=√(KaC))が使えるのは、通常α<0.05程度の場合に限られる。濃度が非常に薄い場合はこの近似が崩れるため、Ka=Cα²/(1−α)を(1−α)を無視せずに2次方程式として正確に解く必要がある。計算精度に注意
🧮 近似式と厳密解の比較
| 濃度C | 近似 [H⁺]=√(KaC) | 厳密解(2次方程式) | 誤差 |
|---|---|---|---|
| 0.1 mol/L | 1.34×10⁻³ | 1.33×10⁻³ | 約1%(近似OK) |
| 0.0001 mol/L | 4.24×10⁻⁵ | 3.44×10⁻⁵ | 約23%(近似は不正確) |
極端に薄い溶液では近似式の[H⁺]が元の濃度Cを超えてしまうなど非物理的な結果になるため、必ず2次方程式(またはさらに水の自己電離まで考慮)で解く。
緩衝液と溶解度積
私たちの血液のpHは常に7.35〜7.45の狭い範囲に保たれている。少し酸性やアルカリ性の物質を摂取しても、血液のpHが大きく変動しないのは、体の中に緩衝液のしくみが備わっているからだ。緩衝液は、少量の酸や塩基を加えてもpHがほとんど変わらない特別な溶液である。
また、水にほとんど溶けない塩(難溶性塩)もある。例えば塩化銀(AgCl)は水にわずかしか溶けないが、その「わずかに溶ける量」を扱うための考え方が溶解度積である。
緩衝液は少量の酸や塩基を加えてもpHがほとんど変化しない溶液。弱酸とその塩(例:CH₃COOH と CH₃COONa)の混合液が代表例。溶解度積 Ksp は難溶性塩の溶解平衡における平衡定数で、沈殿生成の条件を判断するのに使う。
図2:緩衝液のしくみ。弱酸の共役塩基(CH₃COO⁻)が酸を吸収し、弱酸(CH₃COOH)が塩基を吸収する。
⚗️ 溶解度積 Ksp
| 難溶性塩 | 溶解平衡 | Ksp の式 |
|---|---|---|
| AgCl | AgCl(s) ⇌ Ag⁺(aq) + Cl⁻(aq) | Ksp = [Ag⁺][Cl⁻] ≈ 1.8 × 10⁻¹⁰ |
| BaSO₄ | BaSO₄(s) ⇌ Ba²⁺(aq) + SO₄²⁻(aq) | Ksp = [Ba²⁺][SO₄²⁻] ≈ 1.1 × 10⁻¹⁰ |
| Ag₂CrO₄ | Ag₂CrO₄(s) ⇌ 2Ag⁺(aq) + CrO₄²⁻(aq) | Ksp = [Ag⁺]²[CrO₄²⁻] ≈ 1.1 × 10⁻¹² |
イオン積 Q が Ksp より大きいとき沈殿が生じ、Q < Ksp のとき沈殿は溶解する。
❌ よくある誤解
緩衝液は「pHの変化を大幅に緩和する」溶液であり、「一切変化しない」わけではない。加える酸・塩基の量が多すぎれば緩衝作用の限界(緩衝容量)を超えてpHが大きく動く。
「難溶性」とは「溶けにくい」という意味であり「全く溶けない」という意味ではない。Ksp=[Ag⁺][Cl⁻]の値からAgClの飽和溶液中のAg⁺濃度(≈1.3×10⁻⁵ mol/L)を計算で求めることもできる。
共通イオン効果:溶解平衡にある難溶性塩の溶液に、その塩を構成するイオンと同じイオンを含む別の物質を加えると、ルシャトリエの原理により溶解平衡が沈殿の方向に移動し、溶解度が低下する。例えばAgCl飽和溶液にNaCl(Cl⁻を含む)を加えると、AgClの溶解度はさらに下がる。大学範囲・発展
✅ この単元のまとめ
- 弱酸の電離定数:Ka = [H⁺][A⁻] / [HA];[H⁺] ≈ √(Ka×C)(αが小さい場合の近似)
- オストワルトの希釈律:薄めるほど電離度αは上がるが、[H⁺]=Cαは減少しpHは上がる
- 弱塩基の電離定数:Kb = [BH⁺][OH⁻] / [B];Ka × Kb = Kw = 10⁻¹⁴
- 塩の加水分解:弱酸塩 → 塩基性;弱塩基塩 → 酸性;強酸・強塩基塩 → 中性
- 緩衝液:弱酸 + その塩(共役塩基)の混合液;少量の酸塩基でpHがほぼ一定
- ヘンダーソン式:pH = pKa + log([A⁻]/[HA])
- 溶解度積 Ksp:難溶性塩の平衡定数。イオン積 Q > Ksp で沈殿生成
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