電気分解
電気を流して化学反応を起こすとどうなる?ファラデーの法則で析出量を計算し、工業プロセスも理解しよう。
電極反応とファラデーの法則
アクセサリーの「金メッキ」は、安い金属の表面に電気の力で金の薄い膜を貼り付けたもの。これは電池の逆の発想で、外部から電気を無理やり流し込むことで、本来自然には起きにくい反応(金属の析出など)を人工的に起こしている。これを電気分解という。
水に電極を入れて電気を流すと、片方の電極から水素の泡、もう片方から酸素の泡が発生する(水の電気分解)。流す電気の量を増やせば増やすほど、発生する気体や析出する金属の量も増える、という比例関係がある。
電気分解は外部電源で電流を流して酸化還元反応を起こす操作。電源の陽極側につないだ電極(陽極)で酸化、陰極側(陰極)で還元が起こる。流した電気量と析出・発生する物質量の関係をファラデーの法則で計算する。
⚡ 代表的な電気分解の電極反応
| 電解液 | 陰極(還元) | 陽極(酸化) |
|---|---|---|
| 希硫酸 | 2H⁺ + 2e⁻ → H₂↑ | H₂O → ½O₂↑ + 2H⁺ + 2e⁻ |
| 塩化銅(II)水溶液 | Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(析出) | 2Cl⁻ → Cl₂↑ + 2e⁻ |
| 塩化ナトリウム水溶液 | 2H₂O + 2e⁻ → H₂↑ + 2OH⁻ | 2Cl⁻ → Cl₂↑ + 2e⁻ |
| 硫酸銅(II)水溶液 | Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(析出) | H₂O → ½O₂↑ + 2H⁺ + 2e⁻(Pt極) |
📐 ファラデーの法則と計算式
- ファラデー定数 F = 96500 C/mol(電子 1 mol あたりの電気量)
- 流した電気量:Q [C] = I [A] × t [s]
- 移動した電子の物質量:n(e⁻) = Q / F = I×t / 96500 [mol]
- 析出量:n(物質) = n(e⁻) / (1 mol あたりの電子数)
例:2 A の電流を 965 s 流したとき、陰極に析出する Cu の質量
→ Q = 2×965 = 1930 C → n(e⁻) = 1930/96500 = 0.02 mol → n(Cu) = 0.01 mol → m = 0.01×64 = 0.64 g
❌ よくある誤解
電気分解の陽極は外部電源の+極につながる電極で、必ず酸化反応が起こる。電池の正極(還元)とは呼び方の由来も反応の向きも違う点に注意。
「還元されやすさ」はイオン化傾向の並びの逆順になる。水溶液の電気分解では、水よりも還元されにくい金属イオン(Na⁺, K⁺など)は析出せず、水素が発生する。
ファラデー定数の精密な値は F = 96485 C/mol(電気素量 e=1.602176634×10⁻¹⁹ C とアボガドロ定数 N_A=6.02214076×10²³ /mol の積、いずれもSI基本単位の厳密な定義値)。高校化学では計算のしやすさから96500として扱うことが多い。計算問題頻出
🧮 実例計算:塩化ナトリウム水溶液の電気分解で発生するCl₂の体積
電流5 Aを3860秒間流したとき、陽極で発生するCl₂の体積(標準状態)を求める。
| ステップ | 計算 |
|---|---|
| 電気量 Q | 5 A × 3860 s = 19300 C |
| 電子の物質量 n(e⁻) | 19300 / 96500 = 0.20 mol |
| Cl₂の物質量(2Cl⁻→Cl₂+2e⁻より電子2molでCl₂ 1mol) | 0.20 / 2 = 0.10 mol |
| 標準状態での体積 | 0.10 × 22.4 = 2.24 L |
電解精錬と工業電解
鉱山から掘り出したばかりの銅(粗銅)には不純物が混ざっており、電気を通す性能があまり良くない。そこで電気分解の仕組みを使って不純物を取り除き、純度99.99%以上の高純度な銅を作る工業プロセスが行われている。私たちが使う電線の銅は、ほぼすべてこの方法で作られている。
また、アルミサッシや飲料缶に使われるアルミニウムも、もとは電気分解によって鉱石(ボーキサイト)から作られる。アルミニウムの精錬には大量の電気が必要なため、「電気の缶詰」とよばれることもある。
電解精錬は粗銅(不純物を含む銅)を精製して純銅を得る工業プロセス。陽極に粗銅・陰極に純銅板を使い、CuSO₄ 水溶液を電解液として電気分解する。不純物の Au や Ag は陽極泥として沈積する。
🏭 電解精錬のしくみ
| 電極 | 反応 | ポイント |
|---|---|---|
| 陽極(粗銅) | Cu → Cu²⁺ + 2e⁻ 不純物も溶ける | 不純物のうちイオン化傾向の低い Au, Ag は溶けず陽極泥に残る |
| 陰極(純銅) | Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu 析出 | Cu²⁺のみが選択的に析出するため高純度(99.99%)になる |
🏗️ 主な工業電解プロセス
| プロセス | 原料 | 目的・主な生成物 |
|---|---|---|
| 食塩水の電気分解(イオン交換膜法) | NaCl 水溶液 | Cl₂(陽極)・H₂(陰極)・NaOH(陰極室)の製造 |
| アルミニウムの製錬(溶融塩電解) | Al₂O₃(アルミナ) | Al の製造(水溶液では不可、融解塩を電解) |
| 電気メッキ | 金属イオン含む電解液 | 製品表面に金属薄膜を形成(装飾・腐食防止) |
❌ よくある誤解
Na, K, Ca, Mg, Alなどイオン化傾向の大きい金属は、水溶液の電気分解では単体を得られない。ボーキサイトからのAl製錬(ホール・エルー法)が溶融塩電解を使う理由はここにある。
陰極で析出するのはイオン化傾向が銅と同程度〜それより小さいイオンが優先される、という電析の選択性が高純度化のカギ。
アルミニウムの工業的製法(ホール・エルー法)では、氷晶石(Na₃AlF₆)にAl₂O₃を溶かし込むことで融点を下げた融解液を電気分解する。純粋なAl₂O₃の融点は2000℃を超えるが、氷晶石との混合により約1000℃まで下げられ、実用的なコストでの電解が可能になる。大学範囲・発展
✅ この単元のまとめ
- 電気分解:外部電源で強制的に酸化還元反応を起こす(電池とは逆)
- 陽極:酸化反応(e⁻ を放出);陰極:還元反応(e⁻ を受け取る)
- ファラデーの法則:Q = It, n(e⁻) = Q/F, F ≈ 96500 C/mol(精密値96485)
- 電解精錬:粗銅(陽極)→ Cu²⁺ → 純銅(陰極)に析出。Au, Ag は陽極泥へ
- イオン交換膜法:NaCl 電解で Cl₂, H₂, NaOH を製造(食品・医薬品用途)
- Al 製錬(ホール・エルー法):氷晶石に溶かしたAl₂O₃を溶融塩電解(水溶液では Al を得られない)
理科専門塾 Chem Atlas Academy
調べる力を、得点力に変える塾。
中学・高校・高専生のための、完全オンライン理科専門塾。
授業はせず、月4回のオンライン解説で伴走します。
💡 内容の誤りやご意見はお気軽にどうぞ。
✉️ お問い合わせはこちら