反応エンタルピーとヘスの法則
化学反応で出入りする熱を正確に計算するには?エンタルピーとヘスの法則で経路に依らない計算を身につけよう。
反応エンタルピーの種類
ガスコンロで都市ガスを燃やすと熱くなる。これは反応が熱を「出す」反応(発熱反応)だからだ。逆に、使い捨てカイロの中の一部や、水に硝酸アンモニウムを溶かすと周りが冷たくなる反応もある。これは熱を「吸う」反応(吸熱反応)。
化学反応にともなって出入りする熱の量を数値化したものを反応エンタルピー(ΔH)とよぶ。発熱反応ならΔHはマイナス、吸熱反応ならΔHはプラスの値になる、という約束になっている。
化学反応にともなう熱の出入りを反応エンタルピー ΔH で表す。発熱反応では ΔH < 0、吸熱反応では ΔH > 0。反応エンタルピーには生成・燃焼・中和・溶解など種類があり、それぞれ基準条件(25°C, 1 atm)での値が定義されている。
🔥 主な反応エンタルピーの定義
| 種類 | 定義 | 例 |
|---|---|---|
| 生成エンタルピー | 単体から1 molの化合物を生成するときのΔH | H₂(g) + ½O₂(g) → H₂O(l) ΔH = −286 kJ |
| 燃焼エンタルピー | 1 molの物質が完全燃焼するときのΔH(常に負) | C(s) + O₂(g) → CO₂(g) ΔH = −394 kJ |
| 中和エンタルピー | 酸と塩基の中和で水1 molが生成するときのΔH | H⁺(aq) + OH⁻(aq) → H₂O(l) ΔH ≈ −57 kJ |
| 溶解エンタルピー | 1 molの物質が溶媒に溶けるときのΔH | NH₄NO₃(s) → NH₄⁺(aq) + NO₃⁻(aq) ΔH = +25 kJ(吸熱) |
| 結合エンタルピー | 気体分子の共有結合1 molを切断するときのΔH(常に正) | H₂(g) → 2H(g) ΔH = +436 kJ |
❌ よくある誤解
ΔHは「反応物と生成物、どちらがエネルギーを多く持っているか」の差(生成物−反応物)。熱を周囲に出す=系のエネルギーが減る=マイナス、と覚える。
結合エンタルピーの定義(切断のエネルギー)を逆に覚えると、ヘスの法則を使った計算で符号を間違えやすい。
高校化学で扱う反応エンタルピーは、正確には一定圧力下でのエンタルピー変化 ΔHであり、これは反応で出入りする熱量(定圧条件)に等しい。エンタルピー H は内部エネルギー U と圧力・体積の積を使って H = U + PV と定義される、より一般的な状態量である。大学範囲
ヘスの法則とエネルギー図
山の麓から頂上まで登るとき、まっすぐ登っても、ジグザグに遠回りしても、最終的に登った標高(高さの差)は同じになる。銀行口座も同じで、途中で何度も入金・出金を繰り返しても、最初と最後の残高の差は、その入出金の合計と必ず一致する。
化学反応の熱の出入りも同じ考え方が成り立つ。反応の「始まり」と「終わり」が同じであれば、途中でどんな経路(何段階の反応)を通っても、出入りする熱の合計は変わらない。これをヘスの法則という。
ヘスの法則(総熱量保存の法則):反応の経路に関わらず、反応前後の状態が同じなら ΔH の総和は一定。これを使うと、直接測定できない反応のΔHを間接的に求めることができる。
図2:ヘスの法則の例。C → CO₂ の ΔH は、C → CO → CO₂ の2段階の ΔH の和に等しい。
📐 ヘスの法則を使った計算のコツ
- 求めたい反応式を「ターゲット」とし、与えられた反応式を足し引きして組み合わせる
- 反応式を逆にすると ΔH の符号が逆転する
- 反応式を c 倍すると ΔH も c 倍になる
- すべての成分(左辺・右辺)が正しく消去されているか確認する
❌ よくある誤解
エンタルピーは「状態量」であり、始点と終点だけで決まる。途中の道筋(反応機構)には依存しない。
例えば A→B(ΔH=−100kJ)なら、B→A のΔHは+100kJになる。エネルギー図の矢印の向きを逆にすると考えるとわかりやすい。
結合エンタルピーのデータを使えば、ヘスの法則の考え方で気体分子どうしの反応エンタルピーを見積もることができる。ΔH = (反応物の結合エンタルピーの総和) − (生成物の結合エンタルピーの総和)、すなわち「切る結合のエネルギー総和」から「作る結合のエネルギー総和」を引く。計算問題頻出
🧮 実例計算:結合エンタルピーからΔHを求める
H₂(g) + Cl₂(g) → 2HCl(g) の ΔH を、結合エンタルピー(H–H=436, Cl–Cl=242, H–Cl=431 kJ/mol)から求める。
| 過程 | 計算 |
|---|---|
| 切れる結合(反応物) | H–H(436) + Cl–Cl(242) = 678 kJ |
| できる結合(生成物) | H–Cl × 2(431×2) = 862 kJ |
| ΔH | 678 − 862 = −184 kJ |
実測値(HCl生成エンタルピー−92.3 kJ/molの2倍)は−184.6 kJであり、結合エンタルピーからの見積もりとよく一致する。
✅ この単元のまとめ
- 反応エンタルピー ΔH:発熱 → ΔH < 0、吸熱 → ΔH > 0
- 生成エンタルピー:単体から1 molの化合物を生成するときのΔH
- 燃焼エンタルピー:1 molが完全燃焼するときのΔH(常に負)
- 結合エンタルピー:共有結合1 molを切断するためのΔH(常に正)
- ヘスの法則:反応経路に関わらずΔHの総和は一定
- 計算:式を逆転(ΔH 符号反転)・倍加(ΔH 倍加)して目的反応式を作る
- 結合エンタルピーからΔH = Σ(切る結合) − Σ(作る結合)
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