合成高分子①
ポリエチレンからナイロンまで——モノマーの種類と重合方法の組み合わせで、全く異なる素材が生まれる。合成高分子の世界を整理しよう。
付加重合による合成高分子
レジ袋、ペットボトルのキャップ、消しゴム、フライパンのコーティング——身のまわりのプラスチック製品の多くは、エチレンのような小さな分子(モノマー)が鎖のようにどんどんつながって作られている。この「二重結合が次々と開いてつながっていく」重合方法を「付加重合」という。
使うモノマーの種類を変えるだけで、透明で柔らかいポリエチレンにも、硬くて薬品に強いポリ塩化ビニルにも、発泡させて緩衝材になるポリスチレンにもなる。
合成高分子は人工的に合成した高分子化合物。付加重合は不飽和結合(C=C)をもつ単量体(モノマー)が、二重結合を開きながら次々に付加反応してつながり、鎖状高分子(ポリマー)を形成する重合方法である。
🧪 エチレンとポリエチレンの構造式
エチレン(モノマー)
CH₂=CH₂
ポリエチレンの繰り返し単位
−CH₂−CH₂−
図1:SMILES(PubChem実データ)から生成した構造式。エチレンの二重結合(C=C)が開き、両端の炭素が隣のモノマーと単結合でつながっていくことで、鎖状のポリエチレンが生成する。
🧵 主な付加重合系プラスチック・合成繊維
| 名称 | モノマー | 特徴・用途 |
|---|---|---|
| ポリエチレン(PE) | エチレン CH₂=CH₂ | 軟らかく耐薬品性が高い;包装フィルム・ボトル・レジ袋 |
| ポリプロピレン(PP) | プロピレン CH₂=CHCH₃ | 軽量で耐熱性;繊維・容器・自動車部品 |
| ポリ塩化ビニル(PVC) | 塩化ビニル CH₂=CHCl | 硬いが可塑剤で軟化可能;配管・床材・電線被覆 |
| ポリスチレン(PS) | スチレン C₆H₅CH=CH₂ | 発泡体(発泡スチロール)は緩衝材・断熱材;透明で硬い |
| ポリ酢酸ビニル(PVAc) | 酢酸ビニル CH₃COOCH=CH₂ | 接着剤(木工用ボンド);ビニロンの原料 |
| アクリル繊維 | アクリロニトリル CH₂=CHCN | ウールに似た風合い;セーター・毛布 |
| PMMA(アクリル樹脂) | メタクリル酸メチル | 透明度が非常に高い;有機ガラス・水族館の水槽 |
| PTFE(テフロン) | テトラフルオロエチレン CF₂=CF₂ | 耐熱・耐薬品性が極めて高い;フライパンのコーティング |
❌ よくある誤解
小分子(主にH₂O)が抜け出るのは「縮合重合」の特徴。付加重合と縮合重合の違いは、この「小分子が抜けるかどうか」で見分けるのが最も確実。
付加重合には、開始剤がラジカルを発生させて連鎖的に進む「ラジカル重合」のほか、チーグラー・ナッタ触媒を用いる「配位重合」がある。配位重合で得られる高密度ポリエチレン(HDPE)は分子鎖の枝分かれが少なく、結晶化度が高いため、ラジカル重合で得られる低密度ポリエチレン(LDPE)より硬く融点も高い。大学範囲・重合触媒
合成ゴム(ジエン系付加重合)
タイヤや消しゴムのゴムは、なぜ引っ張ると伸びて、離すと元に戻るのか。実は、天然ゴムも合成ゴムも、細長い分子がぐにゃぐにゃに絡み合った構造をしており、引っ張ると絡まりがほどけて伸び、離すと絡まりが元に戻る性質(弾性)を持っている。
合成ゴムは、天然ゴムの主成分イソプレンに似た構造をもつ分子(ジエン)を人工的に付加重合させて作られる。
天然ゴムはイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)が付加重合したポリイソプレンである。合成ゴムはイソプレンやブタジエンなどの共役ジエンを付加重合させて人工的に作る。
🧪 イソプレンの構造式
イソプレン
天然ゴムのモノマー
図2:SMILES(PubChem実データ)から生成した構造式。2つの二重結合(共役ジエン)をもつため、付加重合すると鎖の中に二重結合が1つ残る特殊な構造の高分子ができる。
🛞 主な合成ゴム
| 名称 | モノマー | 特徴・用途 |
|---|---|---|
| ポリイソプレンゴム(合成天然ゴム) | イソプレン | 天然ゴムとほぼ同じ構造;タイヤ |
| ブタジエンゴム(BR) | 1,3-ブタジエン | 耐摩耗性が高い;タイヤのトレッド |
| スチレン-ブタジエンゴム(SBR) | スチレン + 1,3-ブタジエン(共重合) | 安価で汎用性が高い;タイヤ・靴底 |
| クロロプレンゴム(CR) | クロロプレン | 耐油性・耐候性に優れる;電線被覆・接着剤 |
⚗️ 加硫(かりゅう)とゴム弾性
生ゴムに硫黄(S)を加えて加熱すると、ポリイソプレンの分子鎖どうしが硫黄原子を介して橋渡し(架橋)される。この操作を加硫といい、加硫によって弾性・強度・耐久性が大きく向上する。加硫していない生ゴムは温度変化で軟化・劣化しやすいが、加硫ゴムは実用的な弾性材料になる。
❌ よくある誤解
ゴム弾性は「結合の伸び縮み」ではなく、鎖状分子の「形の変化(エントロピー変化)」によって生じる、金属のばねとは異なるしくみの弾性である。
天然ゴムのポリイソプレンは、二重結合部分がすべてシス形(cis)である「シス-1,4-ポリイソプレン」という立体規則性をもつ。人工的にイソプレンを重合しても、触媒の選び方によってシス形とトランス形が混在し、天然ゴムと全く同じ弾性を再現するのは難しい。トランス形が主体の異性体は「グッタペルカ」と呼ばれ、ゴム弾性を示さず硬い樹脂状になる。大学範囲・立体規則性重合
縮合重合とナイロン・ポリエステル
ストッキングや釣り糸に使われるナイロンや、ペットボトルの原料になるポリエステルは、付加重合とは違う方法で作られる。分子の両端にある「手」(官能基)どうしが握手するたびに、小さな水分子(H₂O)が1個ずつ抜け出しながら鎖がつながっていく——この重合方法を「縮合重合」という。
ナイロンは1935年にアメリカで発明され、「クモの糸より細く、鋼鉄より強い」と評された、世界初の完全合成繊維である。
縮合重合は2つの官能基(−OHと−COOH、−NH₂と−COOHなど)をもつモノマーどうしが、脱水縮合を繰り返しながら鎖状高分子を形成する重合方法。ナイロン(ポリアミド)とポリエステルが代表的な縮合重合体である。
🧪 ナイロン66の原料の構造式
ヘキサメチレンジアミン
H₂N−(CH₂)₆−NH₂
アジピン酸
HOOC−(CH₂)₄−COOH
図3:SMILES(PubChem実データ)から生成した構造式。ジアミン(−NH₂を2つもつ)とジカルボン酸(−COOHを2つもつ)が交互に脱水縮合を繰り返し、アミド結合(−CO−NH−)でつながったナイロン66ができる。
🧶 縮合重合の代表例
| 高分子 | モノマー | 結合 | 用途 |
|---|---|---|---|
| ナイロン66 | ヘキサメチレンジアミン + アジピン酸 | アミド結合(−CO−NH−) | ストッキング・歯ブラシの毛 |
| ナイロン6 | ε-カプロラクタム(開環重合) | アミド結合 | 釣り糸・歯車 |
| PET(ポリエチレンテレフタレート) | エチレングリコール + テレフタル酸 | エステル結合(−COO−) | ペットボトル・繊維(ポリエステル) |
| ビニロン | ポリ酢酸ビニル →(けん化)→ ポリビニルアルコール →(アセタール化) | アセタール結合 | 耐薬品性の繊維;日本で開発 |
🔁 開環重合:ナイロン6の作り方
ε-カプロラクタム(環状のアミド)は、環を開きながら次々とつながる「開環重合」によってナイロン6になる。開環重合では脱水縮合は起こらないが、生成物の構造(アミド結合の繰り返し)は縮合重合と同じになるため、広い意味で縮合重合の仲間として扱われる。
❌ よくある誤解
付加重合(小分子が抜けない)と縮合重合(小分子が抜ける)の計算上の違いは、分子量計算の問題で必ず問われる重要ポイント。
縮合重合には、単量体を溶融させて高温・減圧下で反応させる「溶融重合」のほか、界面で瞬時に反応が進む「界面重合」がある。実験室でナイロン66を作る「ナイロンの糸引き実験」は界面重合の代表例で、ヘキサメチレンジアミン水溶液とアジピン酸ジクロリドの有機溶媒溶液の境界面(界面)でナイロン66の薄膜が瞬時に生成する。大学範囲・重合方法
✅ この単元のまとめ
- 付加重合:不飽和モノマー(C=C) → 鎖状ポリマー(PE, PP, PVC, PS, PMMA, PTFE など);小分子は生成しない
- 合成ゴム:イソプレン・ブタジエン系のジエンを付加重合(BR, SBR, CRなど);加硫で架橋して弾性向上
- 縮合重合:2官能基モノマーが脱水縮合を繰り返す → ナイロン・PET など;H₂Oが抜ける分、分子量計算に注意
- ナイロン66:ヘキサメチレンジアミン + アジピン酸 → アミド結合(−CO−NH−)の繰り返し
- ナイロン6:ε-カプロラクタムの開環重合 → ナイロン66と同じアミド結合構造
- PET:エチレングリコール + テレフタル酸 → エステル結合(−COO−)の繰り返し(ポリエステル)
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