天然高分子
デンプンとセルロースは同じグルコースの重合体なのになぜ性質が違う?糖類・タンパク質・核酸という3つの天然高分子の構造と、生体での役割を整理しよう。
単糖・二糖
ご飯やパンの甘み、果物の甘み、砂糖の甘み——これらはすべて「糖類」という炭水化物の仲間である。糖類は炭素・水素・酸素だけでできた分子で、これ以上分解できない一番小さな単位を「単糖」という。代表的な単糖がグルコース(ブドウ糖)で、血液中を流れて全身のエネルギー源になっている。
単糖が2個つながると「二糖」になる。砂糖の主成分スクロース(ショ糖)はグルコースとフルクトース(果糖)が1個ずつ結びついた二糖である。
糖類(炭水化物)は一般式(CH₂O)ₙで表される生体分子。単糖(グルコース・フルクトース・ガラクトースなど)が最小単位で、単糖2分子がグリコシド結合(脱水縮合)でつながったものが二糖である。
🍬 グルコースの実際の構造式(環状・鎖状)
グルコース(環状構造)
六員環(ピラノース形)
グルコース(鎖状構造)
アルデヒド基(−CHO)をもつ
図1:SMILES(PubChem実データ)から生成した構造式。水溶液中では環状構造と鎖状構造が平衡状態にあり、ごくわずかに存在する鎖状構造の−CHO(アルデヒド基)が還元性を示す原因になる。
⚗️ 主要な単糖・二糖の比較
| 名称 | 分類 | 分子式 | 性質・特徴 |
|---|---|---|---|
| グルコース(ブドウ糖) | 単糖 | C₆H₁₂O₆ | 還元性あり;血糖の主成分;六員環(α・β型) |
| フルクトース(果糖) | 単糖 | C₆H₁₂O₆ | グルコースの構造異性体;還元性あり;最も甘い糖 |
| ガラクトース | 単糖 | C₆H₁₂O₆ | グルコースの立体異性体;乳糖の構成成分 |
| スクロース(ショ糖・砂糖) | 二糖 | C₁₂H₂₂O₁₁ | グルコース+フルクトース;還元性なし |
| マルトース(麦芽糖) | 二糖 | C₁₂H₂₂O₁₁ | グルコース×2(α1→4結合);還元性あり |
| ラクトース(乳糖) | 二糖 | C₁₂H₂₂O₁₁ | ガラクトース+グルコース;還元性あり |
❌ よくある誤解
マルトースやラクトースは、片方の単糖の還元性を担う部分が結合に使われずに残っているため、還元性を保持している。スクロースだけが特別に還元性を示さない点は入試で頻出。
グルコースの環状構造は、1位の炭素(アノマー炭素)の−OHの向きによってα型とβ型の2種類の立体異性体(アノマー)が存在する。水溶液中ではα型・β型・鎖状形の3者が平衡状態にあり、この平衡が崩れることはない(変旋光)。α-グルコースが重合するとデンプンに、β-グルコースが重合するとセルロースになり、この立体配置の違いが単元23の後半で学ぶ多糖の性質の違いを生む。大学範囲・立体化学
多糖(デンプン・セルロース)
ご飯の主成分デンプンと、木や紙の主成分セルロースは、どちらも「グルコースがたくさんつながった多糖」という点では全く同じである。それなのに、人間はご飯を消化できるのに木を食べても消化できない。この違いを生んでいるのが、グルコースどうしのつながり方(結合の向き)のわずかな違いである。
ヨウ素液をデンプンにかけると青紫色に変わる「ヨウ素デンプン反応」は、デンプンのらせん構造の中にヨウ素分子が入り込むことで起こる、有名な検出反応である。
デンプンはα-グルコースが多数グリコシド結合で重合した多糖((C₆H₁₀O₅)ₙ)。セルロースはβ-グルコースが同様に重合した多糖で、分子式は同じだが立体配置の違いにより性質が大きく異なる。
🌾 デンプンとセルロースの比較
| デンプン | セルロース | |
|---|---|---|
| 構成単位 | α-グルコース | β-グルコース |
| 構造 | らせん構造(アミロース)・枝分かれ構造(アミロペクチン) | 直線状で分子間水素結合が発達 |
| ヨウ素反応 | 青紫色(アミロペクチンは赤紫色) | 呈色しない |
| 加水分解酵素 | アミラーゼ(ヒトの消化酵素にある) | セルラーゼ(ヒトは持たない;牛や白アリは腸内細菌が持つ) |
| 所在・用途 | 米・イモなどの貯蔵養分 | 植物の細胞壁;紙・綿・レーヨンの原料 |
🧪 セルロースの誘導体
| 名称 | 生成法 | 用途 |
|---|---|---|
| トリニトロセルロース | セルロース + 濃硝酸・濃硫酸(エステル化) | 火薬(ニトロセルロース火薬) |
| アセテート繊維 | セルロース + 無水酢酸(アセチル化) | 衣料・タバコフィルター |
| ビスコースレーヨン | セルロース→ビスコース→再生繊維化 | 再生繊維(人絹) |
❌ よくある誤解
「分子式が同じ=性質が同じ」ではない好例。多糖の性質は、単位となる単糖の立体配置によって決まる。
デンプンはアミロース(直鎖状、らせん構造)とアミロペクチン(枝分かれ構造)の2成分からなる混合物である。アミロースはヨウ素で濃青色、アミロペクチンは枝分かれのためらせんが短く赤紫色を呈する。もち米はアミロペクチンがほぼ100%であるため粘り気が強い。大学範囲・アミロース/アミロペクチン
アミノ酸とタンパク質・核酸
筋肉・髪の毛・爪、そして体の中で様々な化学反応を進める酵素——これらはすべて「タンパク質」でできている。タンパク質は「アミノ酸」という小さな部品が、数百個も鎖のようにつながってできた巨大な分子である。
また、細胞の中には遺伝情報を記録した「核酸」(DNA・RNA)という別の高分子があり、どのアミノ酸をどの順番でつなげてタンパク質を作るかという設計図の役割を果たしている。
アミノ酸は−NH₂(アミノ基)と−COOH(カルボキシ基)を同一の炭素(α炭素)にもつ両性化合物で、タンパク質の基本単位。アミノ酸どうしがペプチド結合(−CO−NH−、脱水縮合)で連なったものがタンパク質である。
🧬 アミノ酸とペプチド結合の実際の構造式
グリシン
最も単純なアミノ酸
アラニン
側鎖(R基)=CH₃
グリシルアラニン
ペプチド結合(−CO−NH−)
図2:SMILES(PubChem実データ)から生成した構造式。アミノ酸2分子が脱水縮合すると、中央にペプチド結合(−CO−NH−)が1つできる(ジペプチド)。これが多数繰り返されるとタンパク質(ポリペプチド)になる。
🔬 タンパク質の検出反応
| 反応・性質 | 内容 |
|---|---|
| ビウレット反応 | タンパク質 + NaOH + CuSO₄水溶液 → 赤紫色(3個以上のペプチド結合が必要) |
| ニンヒドリン反応 | アミノ酸・タンパク質 + ニンヒドリン試薬 → 青紫〜赤紫色(−NH₂の検出) |
| キサントプロテイン反応 | 芳香環をもつアミノ酸(チロシン・フェニルアラニン) + 濃HNO₃(加熱) → 黄色 |
| 変性 | 加熱・強酸・強塩基・重金属イオン・有機溶媒で立体構造が壊れる(ゆで卵が生卵に戻らない理由) |
🔗 核酸(DNA・RNA)の基本構造
| DNA | RNA | |
|---|---|---|
| 構成糖 | デオキシリボース | リボース |
| 塩基 | アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C) | A・ウラシル(U)・G・C |
| 構造 | 二重らせん構造 | 一本鎖 |
| 役割 | 遺伝情報の保存 | 遺伝情報の伝達・タンパク質合成 |
❌ よくある誤解
アミノ酸は水溶液中で常にイオンの形(双性イオン、あるいは酸性・塩基性条件では陽イオン・陰イオン)で存在しており、電気的に完全に中性な分子として存在するわけではない。
タンパク質(多数のペプチド結合をもつ)の検出には使えるが、アミノ酸そのものの検出にはニンヒドリン反応を使う、という使い分けが重要。
タンパク質の立体構造は、ペプチド結合の並び(一次構造)から、αヘリックスやβシートという水素結合による部分構造(二次構造)、さらに側鎖どうしの相互作用による全体の折りたたみ(三次構造)、複数のポリペプチド鎖が集まった構造(四次構造)へと階層的に決まる。DNAの二重らせん構造は、A(アデニン)とT(チミン)、G(グアニン)とC(シトシン)がそれぞれ水素結合で対をなす「相補性」によって安定化されている。大学範囲・タンパク質の高次構造
✅ この単元のまとめ
- 単糖:グルコース・フルクトース・ガラクトース(すべてC₆H₁₂O₆・還元性あり)
- 二糖:スクロース(還元性なし)、マルトース・ラクトース(還元性あり)
- デンプン:α-グルコース重合体;ヨウ素で青紫;アミラーゼで加水分解
- セルロース:β-グルコース重合体;植物細胞壁;ヨウ素反応なし;硝酸エステル(火薬)
- アミノ酸:両性化合物(−NH₂と−COOHを同一炭素にもつ;等電点で双性イオン)
- ペプチド結合:−COOH + H₂N− → −CO−NH− + H₂O(脱水縮合)
- タンパク質の検出:ビウレット(赤紫・ペプチド結合3個以上)・ニンヒドリン(青紫)・キサントプロテイン(黄)
- 核酸:DNA(二重らせん・デオキシリボース・A-T,G-C)・RNA(一本鎖・リボース・A-U,G-C)
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