🔩 金属結晶について

金属の結晶


金属結合はどの方向にも同じ力で原子同士が結合しようとするため、方向性を持たない。したがって、金属原子は できる限り密に詰まろうとして最密構造か、それに近い状態の結晶をつくる。結晶を構成する原子は結晶格子 を形成し、配列している。

結晶格子に関する用語


結晶格子を扱う上でよく出てくる用語が存在する為、先に説明しておく。イオン結晶でも同じ用語が使われる。

配位数:ある一つの原子の最短距離にある原子が何個接しているのかを表した数。錯イオンでは配位子の数を表すのに使われる。
単位格子に含まれる数:所属粒子数や包含粒子数ともいう。単位格子中に実質何個の原子やイオンが含まれているのかを表した数。
格子定数:単位格子の一辺の長さのこと。単位としてはほとんどの場合cm(センチメートル)やnm(ナノメートル)で表すが、まれにÅ(オングストローム)で表されることもある。
充填率:体積占有率ともいう。単位格子の体積に対する実際の原子が占める体積(完全な球形とみなす)の百分率のこと。最大値は74%であり、この場合を、最密構造という。

🔩 体心立方格子構造

体心立方格子構造とは?


立方体の各頂点及び立方体の中心に原子が配置された構造のこと。ナトリウムNaなどのアルカリ金属や鉄Fe、クロムCrなどがこの構造をとる。画像の通り、単位格子中の原子の数は2つ、配位数は8個である。

体心立方格子構造の画像と原子数(単位格子に含まれる数)・配位数


体心立方格子構造の説明図
体心立方格子に含まれる数(原子数)は、上記画像より、中心の原子1つに加え、8角にそれぞれ1/8された原子が存在しているため、合計で2つになる。

\[ \text{単位格子に含まれる数(原子数)} = 1 + \frac{1}{2} \times \frac{1}{4} \times 8 = 2 \]


上記において、1/2の項は8角の原子がそれぞれ縦軸方向に分割されていることを表し、1/4の項は横軸に4分割されているということを表している。(下図参照)それが8個存在するため、合計すると2個となる。
体心立方格子構造の原子の個数の説明図

配位数は8個になる。これは中心の原子に着目すると一目瞭然である。

体心立方格子構造の原子半径と格子定数の関係


体心立方格子構造の説明図2
今回考える格子の格子定数を(格子の1辺を)aとおく。そうすると、格子内部に存在する原子半径を計算することができる。まず、格子構造において、原子が密に詰まっている部分 を抜き取る。今回考えている体心立方格子では、上図右のオレンジ色の部分となる。抜き取った四角形の辺の長さを必要に応じて三平方の定理を用いながらaを用いて表す。そして、 さらに三平方の定理を用いて抜き取った四角形の対角線の長さをaを用いて表し、それを上図のように原子半径rを用いて方程式を作ると、

\[ 4r = \sqrt{3}\,a \]


となる。この方程式をrについて解くと、

\[ r = \frac{\sqrt{3}}{4}\,a \]


となり、原子半径rを、格子定数aを用いて表せたと言える。これが下部の充填率を計算する上で重要になる。

体心立方格子構造の充填率


原子を完全な球形であると仮定すると、充填率は以下のように計算することができる。

\[ \begin{aligned} \text{充填率} &= \frac{\frac{4}{3}\pi r^{3}\times 2}{a^{3}} \\[2pt] &= \frac{\frac{4}{3}\pi\left(\frac{\sqrt{3}}{4}a\right)^{3}\times 2}{a^{3}} \\[2pt] &= \frac{\frac{4}{3}\pi\left(\frac{(\sqrt{3})^{3}}{4^{3}}a^{3}\right)\times 2}{a^{3}} \\[2pt] &= \frac{\left(\frac{\sqrt{3}}{16}\pi a^{3}\right)\times 2}{a^{3}} \\[2pt] &= \frac{\sqrt{3}}{8}\,\pi \end{aligned} \]


π=3.14、√3=1.73だとするとおおよそこの値は0.68程になる。この値を100倍し、百分率で表すと68%となる。

🔩 面心立方格子構造

面心立方格子構造とは?


立方体の各頂点及び、各面の中心に原子が配置された構造のこと。アルミニウムAl、銀Ag、銅Cuなどがこの構造をとる。この状態は、球を最も密に詰めた状態となり、これを最密であるという。

面心立方格子構造の画像と原子数・配位数


面心立方格子構造

面心立方格子に含まれる数(原子数)は、上記画像より、8角にそれぞれ1/8された原子に加え、4面に1/2個の原子が存在している為、合計で4つになる。
また、配位数は横に二つ重ねると分かりやすいが着目する中心の原子の周りに4つ・上下にも4つずつ存在しているので合計12個となる。

面心立方格子構造の原子半径と格子定数の関係


面心立方格子構造の原子半径と格子定数の関係

今回も考える格子の格子定数を(格子の1辺を)aとおく。そうすると、相変わらず格子内部に存在する原子半径を計算することができる。前回同様、格子構造において、原子が密に詰まっている部分 を抜き取る。今回考えている面心立方格子では、上図右のオレンジ色の部分となる。三平方の定理を用いて抜き取った四角形の対角線の長さをaを用いて表し、それを上図のように原子半径rを用いて方程式を作ると、
\[ 4r = \sqrt{2}\,a \] \[ r = \frac{\sqrt{2}\,a}{4} \]
となり、原子半径rを、格子定数aを用いて表せたと言える。これが前回同様であるが下部の充填率を計算する上で重要になる。

面心立方格子構造の充填率


原子を完全な球形であると仮定すると、充填率は以下のように計算することができる。

\[ \text{充填率} = \frac{\tfrac{4}{3}\pi r^3 \times 4}{a^3} \] \[ = \frac{\tfrac{4}{3}\pi \left( \tfrac{\sqrt{2}}{4}a \right)^3 \times 4}{a^3} \] \[ = \frac{\tfrac{4}{3}\pi \times \tfrac{2\sqrt{2}}{4^3}a^3 \times 4}{a^3} \] \[ = \frac{\tfrac{\pi}{3} \times \tfrac{\sqrt{2}}{2} a^3}{a^3} \] \[ = \tfrac{\pi}{3} \times \tfrac{\sqrt{2}}{2} \;=\; \tfrac{\sqrt{2}}{6}\pi \]


π=3.14、√2=1.41だとするとおおよそこの値は0.74程になる。この値を100倍し、百分率で表すと74%となり、これが最密である。


🔩 六方最密充填構造

六方最密充填構造とは?


下図のような構造を六方最密充填という。マグネシウムMgや亜鉛Znなどがこの状態をとる。なお、下記構造は最小単位という単位格子の定義を満たしていないため、単位格子は下図の右側となる。

六方最密充填構造の画像と原子数・配位数


面心立方格子構造

ここで、単位格子の定義について触れておく。
単位格子とは、結晶全体の構造を最小限に表現できる「最小の繰り返し構造」のことです。まるでタイルのように、空間に規則的に並べることで、 結晶全体を隙間なく構築できる立体のブロック単位です。ここで重要なのは、「最小の」の部分です。BCCやFCCはそのままで大丈夫ですが、HCPは構造をさらに3等分することができるため、 単位格子で考える場合(充填率を求める場合など)は、上記画像のオレンジ線の部分で考えなくてはいけません。
上記図のような格子を考えたとき、完全に半分に割れている原子(六角形の中心の原子)が2つ・格子内部で完全な球体を保っている原子3つ・6分割に割れてしまった原子(六角形の周りのとこ)の原子が12個存在しているため、
\[ \frac{1}{2} \times 2 + 3 + \frac{1}{6} \times 12 = 6 \]
何度も言うが、この格子はさらに3つに分割することができるため単位格子ではない。したがって単位格子の原子数は、
\[ 6 \div 3 = 2 \]
となる。六方最密充填構造では、特殊なことに2つの格子が出てくるため、両方導出できるようにましょう。
また、配位数は二つ上に重ねると分かりやすいが着目する中心の原子の周りに6つ・上下にも3つずつ存在しているので合計12個となる。

六方最密充填構造の原子半径と格子定数の関係


六方最密格子の原子半径と格子定数の関係

今回も考える格子の格子定数を(格子の1辺を)aとおく。そうすると、相変わらず格子内部に存在する原子半径を計算することができる。前回同様、格子構造において、原子が密に詰まっている部分 を抜き取る。今回考えている六方最密充填格子では、単純に六角形の部分を見ると密に詰まっているのでここで考える。図のような考え方をすれば、
\[ 2r = a \] \[ r = \frac{a}{2} \]
となり、原子半径rを、格子定数aを用いて表せたと言える。これが前回同様であるが下記の充填率を計算する上で重要になる。

六方最密充填構造の充填率


充填率の公式自体は、前回同様以下の通りである。
\[ \text{充填率} = \frac{(\text{格子内の原子の体積}) \times \text{原子数}}{\text{格子の体積}} \]
分子の部分は原子を完全な球形と仮定すると求められそうだが、今回難しいのは分母の体積の部分である。見ての通り格子も単位格子も単純な形をしていないのだ。今回は、単位格子の充填率であるが、構造上難しそうなので、一度格子として体積を求めてから3分割する形で単位格子の体積を求めていきたいと思う。 大前提として、体積というものは以下の公式で得られる。
\[ \text{体積} = \text{底面積} \times \text{高さ} \]
したがって、底面積と高さが求まれば良さそうだ。高さから考える。格子の構造をよく見ると、三角錐が見えてくる。この高さを2倍して格子の高さを導出してみる。下記の図を参照してほしい。また、三角錐において頂点から 降ろした垂線と底面の交点をAとおき、底面の三角形の頂点④から辺②③へ降ろした線の交点(辺②③の中点)をBとおいて図を書いている。
六方最密格子・画像8

④とBの長さを求めてみる。③④の長さが2r、B③の長さがrであることから、三平方の定理より
\[ (2r)^2 = \left( \text{④とBの長さ} \right)^2 + r^2 \] \[ \Leftrightarrow \quad \text{④とBの長さ} = \sqrt{3}r \]
次に①とAの長さ(三角錐の高さ)を求める。三角錐は厳密にいうと正四面体構造になっている。正四面体の垂線を引いたとこに定義したAは立方体の重心になっている。(数学の教科書とかで探してください) したがって、Aは④とBの線を2:1に内分する点であるため(ここも数学の教科書とかで探してください)先ほど求めた④とBの長さの2/3が④とAの長さになる。
\[ \text{④とAの長さ} = \sqrt{3}r \times \frac{1}{2+1} \] \[ = \frac{2\sqrt{3}r}{3} \]
あとはもう一度三平方の定理を用いて①とAの長さを求めてみる。下記図も参照にしてほしい。
六方最密格子・画像8
\[ (2r)^2 = (①とAの長さ)^2 + \left(\frac{2\sqrt{3}r}{3}\right)^2 \] \[ \Leftrightarrow \quad ①とAの長さ = \frac{2\sqrt{6}r}{3} \]
最後にこの値を2倍することで六方最密構造の高さを求める。
\[ \text{六方最密構造の高さ} = \underbrace{\frac{2\sqrt{6}r}{3}}_{\text{①とAの長さ}} \times 2 \] \[ = \frac{4\sqrt{6}r}{3} \]
次に、底面積を求める。下図のように考えると
六方最密格子・画像10
三角形の高さは、 \[ (2r)^2 = r^2 + (\text{高さ})^2 \quad \Leftrightarrow \quad \text{高さ} = \sqrt{3}r \] 三角形の面積は、 \[ 2r \times \sqrt{3}r \times \frac{1}{2} = \sqrt{3}r^2 \] 六角形の面積(底面積)は、 \[ \sqrt{3}r^2 \times 6 = 6\sqrt{3}r^2 \]
ここで、底面積と高さが導出できたので、体積を求めてみる。
\[ 6\sqrt{3}r^2 \times \underbrace{\frac{4\sqrt{6}r}{3}}_{\text{高さ}} = 24\sqrt{2}r^3 \]
これで体積が求められた。これは格子の体積であり、単位格子の体積ではない。単位格子の体積は単純に格子の体積を3で割れば良いので、
\[ 24\sqrt{2}r^3 \div 3 \;=\; 8\sqrt{2}r^3 \]
となる。あとは充填率の公式より、
\[ \frac{\tfrac{4}{3}\pi r^3 \times 2}{8\sqrt{2}r^3} = \frac{8\pi \times \tfrac{1}{3}}{8\sqrt{2}} \] \[ = \frac{\pi \times \tfrac{1}{3}}{\sqrt{2}} \] \[ = \frac{1}{3\sqrt{2}}\pi \]
π=3.14、√2=1.41だとするとおおよそこの値は0.74程になる。この値を100倍し、百分率で表すと74%となり、これが最密である。

これ以外にももっとたくさん結晶構造は存在するが代表的な3つを紹介した。ぜひ何度も見返して、学習に役立ててほしい。

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